【ちょっと小話】万年筆のペン先を自社で生産しているところは少ないらしい【後編】

万年筆
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前回はペン先を自社生産しているメーカーについて話しました。

万年筆を製造しているメーカー、ブランドはたくさんありますが、自社で生産しているメーカーは前回話した通り

  • パイロット
  • セーラー万年筆
  • プラチナ万年筆
  • モンブラン
  • ペリカン
  • ラミー
  • アウロラ
  • ビスコンティ
  • デルタ
  • コンウェイ・スチュワート

国内外合わせて10社。

一昔前はすべてペン先を自社生産していたパーカー、ウォーターマン、クロス、ファーバーカステルはOEM供給を受けているということ、その他のメーカーでも一部モデルで自社設計のペン先はあるものの、OEM供給を併用しているということでした。

前回の記事を読んでいない方はまずこちらを参考にしてください。

では多くのメーカーにOEM提供をしているメーカーはどこなのか?というところが今回の話です。

使用しているペン先の写真はあくまでイメージであり、必ずしも製造メーカーと一致している訳ではありません。

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OEM提供メーカーは主に3社

ペン先のOEM提供メーカーは主に「Schmidt Technology(シュミット)社」「Bock(ボック)社」「JoWo(ジョヴォ)社」の3社になります。

まずはこの3社を紹介します。

シュミット社(Schmidt Technology)について

シュミット社の概要

シュミット社はドイツの筆記具部品メーカーです。

正式名称は「Schmidt Technology GmbH」で創業は1938年。

本社はドイツのシュヴァルツヴァルトのザンクト・ゲオルゲンという所にあります。

シュミット社は筆記具の精密部品の製造で世界的に知られています。

シュミット社の技術的特徴

ステンレススチールと金ペン、さらにペン先とペン芯を合わせたユニットも提供しています。

品質管理については供給先のブランドに依存していますが、滑らかさと安定した品質が特徴です。

特に万年筆のペン先ユニットだけでなく、ボールペン・ローラーボール・シャープペンシルのリフィル、カスタムメイドの筆記具部品(OEM供給)、インクフロー技術の開発(スムーズな書き心地を実現)といった分野で高い評価を受けています。

ペン先だけ見ると小規模ですが、ペン先以外では多くの高級筆記具ブランドに部品を供給しており、製品の信頼性と精度の高さで知られています。

高い技術力だけでなく、環境に配慮し持続可能な素材や工程を採用するといった取り組みもされています。

シュミット社の供給先ブランド

「BENU」「エスターブルック」「STEX」「モンテベルデ」「コンクリン」などが挙げられます。

日本では「OHTO」もシュミット社のペン先を使用していますね。

シュミット社のボールペンリフィルについて

今回は万年筆のペン先についての話ですが、先にも触れましたがシュミット社はいろんな種類のボールペンリフィルを作成しています。

油性インク、低粘度油性インク、ローラーボールリフィルなど多種多様なリフィルを提供しています。

万年筆やボールペンの心臓部分ともいえる万年筆のペン先やボールペンのリフィルなどを作っており、まさに筆記具の「中身」を支える企業として活躍しています。

シュミット社の公式ページのリンクを貼っておきますので、よかったらこちらも参考にしてください。

ボック社について

ボック社の概要

ボック社は正式にはPeter Bock GmbH(ペーター・ボック社 )という社名です。

Peter Bock AG(ペーター・ボック社)は2025年にSchneider Schreibgeräte GmbH(シュナイダー社)が買収し、社名を「Peter Bock GmbH」に変更されています。

小話の中の小話「AG」と「GmbH」

ペーター・ボック社の社名変更で「AG」から「GmbH」になっていますね。

「AG」とは日本の株式会社に相当するもので、「GmbH」は有限責任会社(旧有限会社)に相当するものです。

有限責任会社は株式会社よりも柔軟な経営が可能です。

ボック社は買収によって株式会社から有限責任会社となりました。

ボック社のもつ伝統技術を活かしつつ、より柔軟に機動的な製品開発を進めるには理にかなっているようです。

ボック社は、ドイツに本拠を置く家族経営企業です。

世界最大の万年筆ペン先メーカーで、高品質な万年筆ペン先のOEMメーカーとして、世界中の筆記具ブランドからエントリーモデルまで幅広く供給しています。

設立は1939年、ドイツ・ハイデルベルク近郊に本社があります。

ボック社の技術的特徴

ステンレススチールの他、14K、18K、さらにチタンのペン先と多様な素材で製造しており、ペン先のサイズも多様です。

組み立てが容易なトリプルシステムというもの(ペン先やペン芯の一体型ユニット)を提供しています。

ペン先のスリットはレーザー加工で精度が高いです。

またペンポイントは溶接後に精密研磨を行っており、ブランドロゴの刻印などカスタムオーダーにも対応しています。

ボック社の供給先ブランド

Bock社製ペン先を採用している主なブランドとしては「Caran D’Ache(カランダッシュ)」、「Cleo Skribent(クレオ・スクリベント)」、「Conid(コニッド)」、「Danitrio(ダニトリオ)」、「Delta(デルタ)」、「Diplomat(ディプロマット)」、「S.T.Dupont(デュポン)」、「Eboya(エボヤ)」、「Elysee(エリーゼ)」、「Graf von Faber-Castell(グラフ・フォン・ファーバーカステル)」、「Kaweco(カヴェコ)」、「Montegrappa(モンテグラッパ)」、「Visconti(ヴィスコンティ)」の一部モデル、「Franklin Christoph」、「Yard-O-Led」など。

まだまだ上げるとキリがない程多くのブランドに提供しています。

日本ではあまり聞きなじみのないブランドもありますが、よく聞くブランドのペン先(ニブ)も作っているんですね。

Bock社のペン先は多様なサイズ、多様な素材のニブを作っており、ニブのスリット形状、ハート穴、コーティングに至るまで、多彩なオプションがあります。

滑らかな書き味でインクフローが安定しており、プロ・愛好家から高評価を得ています。

ボック社の公式ホームページはこちらになりますので、興味のある方は参考にしてください。

海外サイトになりますが、「FPnibs」というサイトでは個人向けにカスタムニブを提供しており、購入することも可能だそうですよ。

こちらが「FPnibs」(FPは「Fountan Pen」の頭文字)の公式ページです。

こちらも興味のある方は覗いてみてください。

僕は使ったことがありません(汗)が非常に興味があります。

時間や送料などがちょっと大変そうですけどね…

ジョヴォ社について

ジョヴォ社の概要

ジョヴォ社は正式にはJoWo Schreibfeder GmbHという名前の企業です。

ドイツ・ベルリンに拠点を置く高品質な万年筆ペン先の製造会社で、世界中の筆記具ブランドにOEM供給を行っています。

創業が1852年と長い歴史を持つ老舗メーカーです。

ボック社と同じく、万年筆のペン先(ニブ)製造に特化したメーカーで、OEM(他社ブランドへの供給)の他、カスタムニブの製造も可能ということです。

ジョヴォ社の技術的特徴

製造しているのはステンレススチール、14K、18K。

ジョヴォ社はペン先のみを製造しており、ペン芯などは別のメーカーです。

スタブやフレックスニブなど特殊なペン先も製造しています。

ジョヴォ社のスタブはエッジを丸く加工しているので書きやすいとの定評があります。

字幅がEF(極細)~B(太字)の他、スタブ、オブリークなど多彩です。

(オブリークとは、斜めにカットされたペン先の事で、右利きの人が自然な角度で持ったときに、紙に接する面が広くなるよう設計されている)

ジョヴォ社が製造するペン先の特徴ですが、サイズ小型と標準が主流です。

滑らかな書き味でしなやかなのが特徴で、インクフローが安定しており、初心者からプロまで人気です。

提供先ブランドに合わせ、カスタム刻印や形状に対応しています。

ジョヴォ社の供給先ブランド

ジョヴォ社製ペン先を採用している主なブランドは、「WANCHER(ワンチャー)」、「Asvine(アズバイン)」、「Conklin(コンクリン)」、「Edison Pen Co.(エジソン)」、「TWSBI(ツイスビー)」の一部モデル、「Faber Castell(ファーバーカステル)」、「Franklin Christoph(フランクリン・クリストフ)」、「Goulet(グーレ)」、「Esterbrook(エスターブルック)」、「Karas Kustoms」「Taccia」などです。

ジョヴォ社製ペン先は、Bock社と同じく海外サイト「FPnibs」などでカスタマイズが可能だそうです。

ジョヴォ社の公式ページですが、2025年9月現在で更新中とのことで、住所、電話、ファックス、メールアドレスだけが表示されています。

もうひとつ、ジョヴォ社のネット通販ページです。

ステンレススチールペン先、金ペン先などいろんな商品が一気に見れるので見ていて楽しいです。

ご参考までに。

OEM供給を受けているといってもどれも同じではない!

主要OEM提供メーカー3社を簡単に紹介しました。

かなり有名なメーカーでもペン先に関してはOEM供給を受けているのが事実です。

ただ、「同じメーカーがペン先を作っているなら、どのメーカーの万年筆を買っても同じ書き味になる」という話ではありません。

エントリーモデルであれば「同じ書き味だ」と感じる場合もあるかもしれませんが、ペン先は各ブランドごとにカスタムされています。

OEM提供メーカーはペン先の形状や刻印、ペンポイントの研磨、インクフローなどブランドの指定を受けて製造しています。

さらにペン先納品後の最終の仕上げは各ブランドで行われているので、しっかりとブランドカの特色が色濃く出るように調整されているんです。

けして製造メーカーが同じでも同じ書き味ではないということなので、誤解のないようにお願いいたします。

ペン先に刻印されているロゴや番号で見分けられる?

僕はよく分からないので、完全に受け売りなんですが、ペン先に刻印されているロゴや番号で、Bock製かJoWo製かを見分けることが可能なんだそうです。

例えば、JoWo製のペン先には「J」や「JoWo」の刻印があることが多く、Bock製には「B」や「Bock」の刻印が見られるそうです。

その他にもOEM供給元はある

主要3社を紹介しましたが、その他にもペン先をOEM供給しているメーカーがあります。

Kanwriteというメーカーです。

インドの新興メーカーでヌードラーズやラトレー(インド)、オーパス88(台湾)にペン先を供給しています。

ステンレススチール製でヌードラーズのアハブなどのフレックスペン先が特徴です。

もうひとつ、ダニトリオのヨコヅナシリーズは日本の非公開メーカーから供給されているそうです。

日本国内のメーカーらしく、自社生産している3大メーカーの可能性もあるという話ですか、詳細は不明です。

この記事を書こうとしたきっかけ

きっかけはOEM提供メーカーであるシュミット社について調べていた時に見つけた情報で、「シュミット社は自社で万年筆のペン先を作っていないらしい」というものでした。

シュミット社はペン先を作っていないのか?

これに関してははっきりとした情報がないので一概には言えませんが、一部(すべてではない)は他社(主にJowo社やBock社)から調達して組み上げているケースがあるようです。

特にスチールニブ(鉄ペン)に関しては、シュミット社製とされるものの中に、実際にはBock製やJoWo製のOEM品が含まれていることもあるそうです。

この根拠としては、シュミット社の公式サイトでは、ペン芯やインク供給機構、コンバーターなどの製品情報が豊富に掲載されていますが、ペン先の製造に関する詳細はほとんど記載されていなません。

このことからペン先を外部から調達している可能性が示唆されます。

また、「Fountain Pen Network」などの海外フォーラムでは、シュミット社製とされるペン先が実際にはBock社製であるという報告があり、ブランド名と製造元が一致しないケースがあることが指摘されているというものです。

明確な根拠としては弱いかもしれませんが、少なくとも一部の製品に関してはBock社やJoWo社のペン先を使用し、それを自社のペン芯と組み合わせて完成品として提供していることがあるようですね。

シュミット社が自社でも生産可能なペン先を外注する理由として考えられるのは、コストと効率、品質の安定性、柔軟な供給が可能になると考えられます。

ただ、シュミット社(Schmidt Technology)でペン先を全く作っていないという訳ではなく、一部の製品においてはこういうこともあるという話です。

またシュミット社のペン先が自社で生産していないから劣っているという話でもありませんので誤解のないようにお願いします。

こちらがその海外フォーラムに寄稿されている記事になります。

これは2015年の記事ですが、非常に興味深い内容となっています。

この海外フォーラムに寄稿された表を見てみると、シュミット社の名前がないんです。

ただ、パーカーやウォーターマン、クロスはこの時点では自社生産でしたが、現在ではOEM供給を受けるようになっていたりします。

それから前回紹介したラミーはボック社の特殊ニブを採用しているとありますね。

ちょっと古い情報なので、どれくらい信頼していいのかはちょっと分からないですが…

とはいえ、これだけの情報をまとめていてくれるので非常に参考になります。

他に寄せられた情報も面白い内容となっていますので、興味のある方は参考にしてください。

シュミット社で組み上げたペン先は安価で提供でき品質は安定している

シュミット社のペン芯などインクフローに重要な部分には定評があります。

ペン先とペン芯とをただくっつけているだけでは滑らかな書き味と最適なインクフローは実現しません。

組み上げた際に、ペン先の調整、インクフローの調整をしたうえで各メーカーに提供しています。

万年筆の書き味が悪ければそのメーカーそのものの評価に影響しますよね。

あくまでOEMなので、はっきりとシュミット社製のペン先を使用しているとは公言出来ない場合も多々あるかと思います。

以前紹介したOHTOや無印良品のアルミ丸軸万年筆にはシュミット社のペン先が採用されていますが、はっきりとシュミット社のペン先を使っていると分かるのはほんの一部です。

シュミット社は、万年筆の心臓ともいえるペン先をOEM提供する重要な企業です。

高品質で低価格な万年筆を支えてくれるシュミット社のペン先は、僕のような安価で手に入る万年筆大好き人間にとっては非常にありがたい企業なんですね。

ペン先のOEM提供メーカーは万年筆業界を支える重要な存在

シュミット社、ボック社、ジョヴォ社などのOEM提供メーカーは、万年筆の表舞台には出にくいながらも万年筆業界の品質を支える重要な存在です。

ペン先の製造はOEM提供メーカーが行っていても、ブランド側がデザインや仕様を監修するケースもあるので、一部を除き一見してOEM提供メーカーのペン先だと分かることは少ないかと思います。

広くいろんな筆記具ブランドがOEM供給を受けている理由にはコストや生産性といった部分が大きいかもしれません。

実際ペン先を含め、万年筆に必要なパーツを全て自社生産し万年筆を安定して供給するにはかなりの労力が必要かと思います。

万年筆の書き味を大きく左右する精密部品であるペン先を作るには相当の知識や技術が必要です。

万年筆のペン先に絞って生産している工場を有するOEM提供メーカーがあり、供給を受けたメーカーは安定した書き味が自社で生産するよりも安価で手に入れられます。

結果、僕が大好物の安価で手に入る万年筆が出来上がるのですから、OEM提供メーカーには本当感謝ですね。

最後に

記事を書き始めて思いのほか長くなってしまったので【前編】と【後編】に分けることになり、それでも長々とした話になってしまいました(汗)

収集がつかなくなり、上手くまとめられず読みにくい部分が多々あるかと思います。

推論も含まれているので「そういうこともあるかもしれないね」くらいで読み流してくれたらと思います。

最後まで読んでくれてありがとうございました。

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