顔料インクを使っていて「インクが詰まる」「インクがかすれる」という経験はありますか?
水性染料インクであれば水で洗浄することで解決できることが多いですが、顔料インクの場合は違います。
顔料インクは水に溶けない性質で、乾いてしまうと水だけでは洗い流せません。
詰まりの症状がひどい場合はペンクリニックなどの専門店での分解・洗浄が必要になる場合もあります。
今回は専門店に持ち込む前に、まず家庭でできる洗浄方法を紹介します。
この記事をおすすめする人
顔料インクを使っていてインクがかすれるようになった
顔料インクが詰まって書けなくなった
顔料インクの洗浄方法が知りたい
万年筆のかすれやインクが詰まる原因
ペン先のドライアップ
万年筆のインクがかすれたり、全く出なくなったりする原因のひとつがドライアップです。
ドライアップとはキャップの締め忘れや長期間放置していたことよりペン先にあるインクが乾いてしまう事です。
インクが乾いてしまうと、インクの通り道が狭くなったり詰まってしまったりする状態になり、その結果としてインクがかすれたり詰まって書けなくなってしまったりします。
徐々に顔料が固着する
ドライアップは、普段あまり万年筆を使用していない人に起こりやすいですが、毎日のように万年筆を使っていても、インクかすれやインク詰まりは起こります。
これはインクに含まれる顔料が徐々にペン芯などに固着してしまうからです。
万年筆用の顔料インクは、万年筆に使用できるように多少水に溶ける性質を残しています。
ですので、早期に洗浄する習慣をつけておけば大きなトラブルにはなりません。
時々(2~4週間に1回程度)洗浄していればインクが固着することは少ないですが、洗浄せずに使い続けているとインクが固着してしまいます。
同じインクを使い続ける場合でも、定期的に洗浄してするようにしてくださいね。
インクがかすれる・インクが詰まったときの対処法
まずは通常の洗浄を試してみる
症状が軽い場合は通常の洗浄だけで解決する場合があります。
まずは通常の洗浄を試してみてください。
通常の洗浄法についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
こちらの記事を参照してください。
通常の洗浄で解決しなかった場合の対処方法
今回洗浄する万年筆はこちら。
セーラー万年筆の「ハイエースネオクリアカリグラフィー」です。
セーラー万年筆の顔料インク「青墨」をずっと使っています。
時々洗浄もしていたんですが、それでも徐々に顔料が固着してインクフローが悪くなってきました。
まだ書けないというほどではないですが、今回しっかりと洗浄してみたいと思います。
プラチナ万年筆のクリーナーキットを使う
最初に紹介するのはプラチナ万年筆から販売されている「万年筆専用クリーナーキット」を使用する方法です。
2種類販売されており、ひとつは「プラチナ万年筆用」。
もうひとつは「ヨーロッパサイズ用」です。
このふたつ、何が違うかというと、洗浄液に付属しているスポイトです。
スポイトの先の形状が違っていて、ひとつはプラチナ万年筆の独自規格に合わせたスポイトになっています。
もうひとつの「ヨーロッパサイズ用」はモンブラン、ペリカンなどのヨーロッパ統一規格を採用している万年筆に使えるスポイトになっています。
写真左がプラチナ万年筆用、右がヨーロッパサイズ用です。
この接続する先の形状が全く違います。
スポイトのサイズが違うのは、スポイトの先を見なくてもサイズだけでプラチナ万年筆用とヨーロッパサイズ用とを判別できるようになっています。
この首軸とコンバーターやカートリッジを接続する部分のサイズは大きく「独自規格」と「ヨーロッパ統一規格」とに分けることができます。
コンバーターやカートリッジの規格についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
よかったら参考にしてください。
洗浄する万年筆がプラチナ万年筆のもの、ヨーロッパサイズのものどちらでもない場合でも、スポイトの代わりにコンバーターを使っても洗浄できます。
どちらを購入すればいいのか迷ったら、プラチナ万年筆以外のメーカーであればヨーロッパサイズ用のクリーナーキットにしておけば大丈夫です。
インククリーナーキットを使った洗浄方法
水だけで通常の洗浄を行います。
インクが流れ出なくなるまでじゃぶじゃぶとスポイトもしくはコンバーターなどで洗い流します。
万年筆用の顔料インクはメンテナンスのことも考えられており、ある程度は水に溶ける性質があるので、最初の水洗いだけでも結構洗い流すことができます。
洗浄後は簡単に水気を拭き取る程度で大丈夫です。
結構しっかり水で洗いましたが、見た目にはまだまだインクが固着していますね。
次に洗浄液を作ります。
作り方は簡単で「万年筆洗浄液(1パック内10ml)」と水90mlを混ぜ合わせるだけです。
これで100mlの洗浄液が出来上がりです。
多少の誤差は問題ないと思いますが、目分量でなんとなく作ってしまった場合、濃度が薄すぎると洗浄効果が落ちたり、また濃すぎるとペン先やペン芯を傷めてしまったりする可能性があります。
洗浄液の濃度には注意してくださいね。
作った洗浄液に首軸を浸けますが、ペン芯にしっかり洗浄液を浸透させるため、スポイトやコンバーターで何度か洗浄液を出し入れします。
一度水で洗っていますが、洗浄液を通すと結構インクが流れ出てきますね。
しっかりペン芯まで洗浄液が行き渡ったら1日程度を目安に浸けておきます。
1日浸けた状態がこちら。
洗浄液がすっかりインクの色に染まっています。
洗浄液を捨てて、まずは流水に当てて洗浄液を洗い流します。
流す水に色が出てこないようになるまで洗います。
洗い流せたら次はペン芯内の洗浄です。
コップに水道水を入れて、スポイトやコンバーターをペン先に着けて何回か吸ったり出したりしてください。
インクの色が出てくるようであれば、コップの水を何度も入れ替えながら洗浄します。
インクが出て来なくなれば、再度流水で洗いながし、綺麗な布やキッチンペーパーなどで水分を拭き取ります。
陰干しでしっかりと乾燥させれば洗浄は完了です。
インククリーナーを使用して洗浄した後の使い心地
写真左は想像以上にきれいになりました。
写真右はペン芯部分に若干の着色は残っていますが、これ以上は落ちませんでした。
改めてインクを入れてみました。
インクがかすれることなくしっかり筆記できるようになりました。
顔料インクでも「超黒」の洗浄にインククリーナーを使用するのは禁止
プラチナ万年筆の「超黒」という万年筆用水性顔料インクがあります。
プラチナ万年筆のホームページには「超黒」の洗浄に使用できるのは精製水だけで、水道水やインククリーナーの使用は固着の原因となるそうです。
プラチナ万年筆の「超黒」を使用する際は十分注意してくださいね。
家庭用洗剤を使用して洗浄する
軸、ペン芯、ペン先を傷めてしまう可能性があるのであまりおすすめはできませんが、家庭用洗剤を使って洗浄する方法もあります。
注意する点としては、家庭用洗剤は必ず中性洗剤を使用してください。
アルカリ性洗剤ですが、プラスチックを溶かす性質があるので樹脂製の万年筆を傷めてしまいます。
また酸性の洗剤はペン先の金属を傷めてしまったり、サビの原因になったりします。
使用する前にアルカリ性洗剤か、中性洗剤か、酸性洗剤かをボトルの裏にある記載を必ず確認してください。
家庭用の中性洗剤を使った洗浄方法
原液のまま使用せず、必ず薄めて使います。
100mlの水に中性洗剤を入れます。
僕はいつも適当に絞り出しているので、正確な量は測っていませんが、あまりたくさん入れない方がいいと思います。
あまり洗剤濃度を濃くしてしまうと、洗浄後のすすぎに大きく影響します。
というのは、洗剤がペン芯に残留した場合、インクが変質したり、インクフローが不安定になったりすることがあります。
洗浄後は何度もすすいでペン芯内の洗剤をしっかりと洗い流すようにしてください。
洗浄液が出来たら、あとはクリーナーキットの手順と同じです。
洗浄液をしっかりペン芯にまで浸透させて1日程度を目安に浸けておきます。
1日浸けておいた洗浄液を見ると、プラチナ万年筆のクリーナキットほどではないですが、インクが溶け出していますね。
洗浄液を捨て、流水、コップの水を出し入れしてしっかりとすすぎます。
このすすぎの手間暇を惜しまず、ちょっとでも泡が出てくるようなら、何度でもすすいでください。
しっかりとすすぎ終わったら、軽く水気を拭きとり、陰干しにして乾燥させます。
中性洗剤を使用して洗浄した後の使い心地
ペン芯の色はまだ残っていますね。
インククリーナーで洗浄したものと比べると若干インクが固着したままの部分がありますが、それほど大きな違いはありませんね。
インクを入れてみました。
こちらもインクがかすれることなく筆記できました。
一部線が欠けたようになっているのは僕の腕が悪いせいです(笑)
「クリーナーキット」と「中性洗剤」どちらが良い?
洗浄力はクリーナキット
洗剤の濃度にもよるかもしれませんが、クリーナーキットはかなりの洗浄力です。
中性洗剤の残留を避けたかったので薄めにしているので、純粋な比較とはいきませんが、クリーナーキットはかなり洗浄力があります。
万年筆専用ということで安心感もありますね。
クリーナーキットは高価
ただ、クリーナーキットの値段は税込定価1980円。
洗浄液一袋が約400円するので、結構な値段かと思います。
中性洗剤だと商品によってはボトル1本以上買える値段ですよね。
結論はクリーナーキットを使う方が断然おすすめ
中性洗剤がペン芯内に残留してしまったり、誤ってアルカリ性洗剤や酸性洗剤を使ってしまうと、大切な万年筆を傷めてしまったり、最悪書けなくなってしまったりする場合があります。
今回のように顔料インクが固着してしまった時、インクフローが悪くなった時にはクリーナーキットの洗浄力は非常に助かります。
普段しっかりと水で洗浄していれば、クリーナーキットのお世話になることは少ないかと思います。
ちょっとお高いなと思うかもしれませんが、愛用の万年筆と末永く付き合っていくためにも専用クリーナーの使用をおすすめします。
また通常の洗浄をしっかりしていても、年に1回くらいはクリーナーで洗浄して愛用の万年筆をリフレッシュするのに使用するのもいいと思います。
ただ、どうしても安く済ませたい、クリーナーキットがすぐに手に入らないという人は中性洗剤を使った洗浄を試してみてください。
インククリーナーでの洗浄をしてもインクかすれやインク詰まりが解消されなかったら
水での洗浄、インククリーナーでの洗浄をしてもインクかすれやインク詰まりが解消されなかった場合、ペンクリニックなどの専門家による分解、洗浄、調整が必要な状態かと思います。
個人で分解、洗浄される人もいますが、あくまで万年筆の構造や知識、分解や組み上げに必要な技術を持っている人です。
これまで経験のない人が分解や洗浄をするのはおすすめしません。
分解する時にペン芯が折れたり、ペン先を傷めてしまったりしたら回復は不可能になります。
仮に分解できても、きちんと組み上げる必要がありますし、ペン先をしっかり調整できなければ気持ちよく筆記できません。
パーツが壊れなくても結局ペンクリニックのお世話になるハメになってしまいます。
最後に
今回は顔料インクの洗浄方法について紹介しました。
耐水性、耐光性に優れた顔料インクですが、トラブルになると大変です。
正しい使用方法を身につけ、楽しい万年筆ライフを送ってください。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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