今回は万年筆のペン先についてのちょっとした小話です。
万年筆マニアの方にとってはおなじみのネタかと思いますが、僕が最近知って衝撃的だったので記事にしたいと思った次第です。
「自社で万年筆のペン先を作っているのはわずか数社」という事実です。
これにはとにかく驚きました。
ほとんどの筆記具メーカーがOEM提供を受けて万年筆を作っているということです。
ただ、OEM供給に関しての情報は非公開であることが多く、推測を含む情報になるのであくまで小話として読んでくださいね(笑)
前編ではOEM供給を受けず、自社でペン先を製造しているメーカーを紹介します。
自社でペン先を製造しているメーカー
パイロットコーポレーション(PILOT)

パイロットの概要
パイロットは日本を代表する筆記具メーカーで万年筆のペン先を自社で設計・製造しています。
特にカスタムシリーズやナミキブランドといった高精度なニブを製造しています。
パイロットで生産されるペン先の特徴

金ペン先(14K、18K、21K)とステンレススチールペン先を生産しています。
金ペン先は柔軟性と滑らかな書き味が特徴です。
「カスタム」シリーズや「ナミキ」といった高級モデルでは製造されたニブを職人による手作業で研磨、調整されており、厳格な品質管理が行われています。

また、特殊ペン先として以前紹介したフォルカン(FA)など独自の形状をしたペン先を製造しているのも魅力のひとつですね。
パイロットの生産技術

精密な金属加工技術を活用しています。
ペン先のスリットはレーザー加工で高精度にカットされ、ペンポイント(イリジウム)は溶接後研磨しています。
パイロットの万年筆を紹介

これまで紹介してきたパイロットの万年筆レビュー記事です。
よかったら参考にしてください。
「ペチットワン」は万年筆タイプのサインペンです。
すでに廃盤となっており、現在では手に入れることができませんがご参考までに。
プルミックスも廃盤となっており、現在では手に入れることができません。
セーラー万年筆(SAILOR)

セーラー万年筆の概要

セーラー万年筆は1911年に創業。
創業以来、広島県呉市でずっとペン先を自社生産しており、高級万年筆で評価が高いメーカーです。
セーラー万年筆で生産されるペン先の特徴

主力は21Kや14Kの金ペン。
プロフェッショナルギアやプロフィットは独自の書き味が特徴で、世界レベルで高い評価を受けています。
セーラー万年筆のペン先は日本語特有のトメ・ハネ・ハライに適した設計が特徴です。
「長刀研ぎ」は書道の筆のようななめらかな線の変化を表現できるペン先です。
ペン先は職人が手作業で調整しています。
また、プロフィットジュニアなどのステンレススチールペン先も製造しています。
セーラー万年筆の生産技術

ペン先の形状や硬さを調整する独自の技術を持ち、微妙な書き味の違いを追求しています。
スリット幅、ペンポイントの形状はモデル後ごとに最適化しています。
さらに自社の万年筆だけでなく、他メーカーへのペン先のOEM提供もしています。
セーラー万年筆の万年筆を紹介

これまで紹介してきたセーラー万年筆の万年筆レビュー記事です。
よかったら参考にしてください。
プラチナ万年筆(PLATINUM)

プラチナ万年筆の概要
創業は1919年。
東京でペン先を自社生産し、高品質な万年筆を提供しています。
プラチナ万年筆で生産されるペン先の特徴

18Kや14Kの金ペン先、ステンレススチールペン先を製造しています。
特に「3776センチュリー」シリーズなどの高品質な万年筆を製造していることで有名ですね。
金ペンだけでなく、ステンレスペン先でも耐久性となめらかな書き味を実現しています。
さらにペン先だけでなく、ペン先の乾燥を防ぐスリップシール機構を開発しペン先と連動する技術も開発しています。
特殊ペン先では「ミュージック」や「UEF(超極細)」などを提供しています。
プラチナ万年筆の生産技術

ペン先の耐久性とインクフローを最適化する精密加工技術を有しています。
ペンポイントの研磨加工は職人による手作業で行われています。
プラチナ万年筆の万年筆を紹介
これまで紹介してきたセーラー万年筆の万年筆レビュー記事です。
よかったら参考にしてください。
こちらは無印良品の万年筆ですが、プラチナ万年筆がOEM提供をしている万年筆になります。
モンブラン(MONTBLANC)

モンブランの概要
1906年に創業したドイツの高級筆記具メーカーです。
ハンブルグの工場でペン先を自社生産しています。
モンブランで生産されるペン先の特徴

主に14Kや18Kの金ペン先を製造しています。
ペン先に刻印された「4810」はヨーロッパアルプスの最高峰であるモンブランの標高を表しているのは有名な話ですね。
ペン先は柔軟性と高級感を重視しており、モデルごとに硬さや書き味が調整されています。
モデルによってはペン先にロジウム処理、またプラチナコーティングが施されています。
モンブランの生産技術

ペン先は約35もの工程を経て製造されています。
プレス、成形、溶接、研磨といったすべての工程を自社で一貫管理しています。
モンブランの万年筆を紹介
これまで紹介してきたセモンブランの万年筆レビュー記事です。
よかったら参考にしてください。
ペリカン(PELIKAN)

ペリカンの概要
ペリカンは1838年にドイツで創業。
ハノーファーとフェルゼンの工場でペン先を生産しています。
ペリカンで生産されるペン先の特徴

14K、18Kペン先、ステンレススチールペン先を製造しています。
特に金ペン先は柔軟性が高く、書道のように線に強弱がつけることができるのが特徴です。
ペリカンのフラッグシップモデルである「スーベレーン」シリーズはペン先の弾力性とインクフローの良さで世界的に高い評価を受けています。
金とロジウムのツートンデザインのペン先はとても美しいですね。
ペリカンの生産技術

ペン先のスリットは高精度なレーザー加工です。
ペンポイントへのイリジウム溶接の後、職人による研磨などの最終調整がペリカン万年筆の品質を支えています。
ペリカンの万年筆を紹介

これまで紹介してきたモンブランの万年筆レビュー記事です。
よかったら参考にしてください。
ラミー(LAMY)

ラミーの概要
ラミーは1930年にドイツで創業。
ハイデルベルグの工場でペン先を生産しています。
ラミーで生産されるペン先の特徴

主力はステンレススチールペン先ですが、一部の高級モデルでは14Kペン先も製造しています。
ラミーのペン先はシンプルでモダンなデザインが特徴です。
またペン先が交換可能なためメンテナンスが容易なのも特徴ですね。
ステンレススチールは硬めの書き味で、日常使いとして活躍してくれます。
さらにラミーは日本語の筆記用に特化した「漢字ニブ」を開発しています。
程よい弾力があって日本語が書きやすい「漢字ニブ」は非常に人気がありますね。
ラミーの生産技術

標準化された生産ラインで効率的に生産されています。
高級モデルでは職人の手作業で研磨等を行い微調整されています。
ラミーの万年筆を紹介

これまで紹介してきたラミーの万年筆レビュー記事です。
よかったら参考にしてください。
アウロラ(AURORA)

アウロラの概要
1919年にイタリアで創業した高級筆記具メーカーです。
トリノの工場でペン先を自社生産しています。
アウロラの特徴
主に14K、18Kペン先を製造していますが、ステンレススチールも製造しています。
ペン先はなめらかで適度な弾力があり、イタリアらしいエレガントな書き味が特徴です。
限定モデルでは装飾的な彫刻や特殊仕上げのペン先を製造しています。
アウロラの生産技術
ペン先はプレス、成形、スリットカット、ペンポイントの溶接、研磨に至るまで一貫して自社で行っています。
職人による手作業で最終調整をされています。
アウロラは自社生産にこだわり、OEM供給をほぼ受けていません。
限定生産モデルには個別に番号が刻印されることもあるようです。
ビスコンティ(VISCONTI)

ビスコンティの概要
ビスコンティは1988年にイタリアで創業。
フィレンツェでペン先を自社生産しています。
芸術性の高い万年筆で知られています。
ビスコンティの特徴
14K、18Kペン先の製造が中心で、一部パラジウムやステンレススチールペン先も製造しています。
さらに一部モデルで23Kパラジウムペン先も製造しています。
ビスコンティの生産技術
ペン先製造は自社工場で、精密な金属加工と手作業による仕上げを行っています。
スリットはレーザー加工で精度が高いのが特徴です。
過去にはOEM提供を受けていた時期があったようですが、近年は自社生産を強化し、特に高価格帯モデルではすべて自社製ペン先を使用しています。
デルタ(DELTA)

デルタの概要
デルタは1982年にイタリアで創業。
ナポリ近郊でペン先を自社生産しています。
カラフルなデザインと高品質なペン先でよく知られています。
デルタの特徴
14Kペン先とステンレススチールペン先を製造しています。
柔軟性と滑らかさを両立させた金ペン先の書き味は秀逸です。
ドルチェビータなどの限定モデルでは装飾的なペン先デザインが特徴です。
ペン先のサイズはモデルによって幅広く、細字からスタブまであります。
デルタの生産技術
デルタは伝統的な金属加工技術を活用し、ペン先のスリットやペンポイントの溶接は自社で管理しています。
最終的な微調整は職人によって行われており、デルタはこの調整を重視しているそうです。
一時経営難で生産が縮小したことがありますが、2020年に復活し自社生産を維持しています。
コンウェイ・スチュワート(Conway Stewart)

Conway・スチュワートは1905年にイギリスで創業した老舗ブランドです。
現在は小規模ながらイギリスでペン先を自社生産しています。
コンウェイ・スチュワートの概要
18Kペン先が主力です。
硬めで安定した書き味が特徴です。
クラシックなイギリスデザインを反映したペン先で、ヴィンテージ感のあるペン先になっています。
コンウェイ・スチュワートの生産技術
伝統的なイギリスの筆記具製造技術を継承しています。
ペン先は少量生産で、職人による手作業が中心となっています。
過去に経営破綻し規模を縮小し、OEM供給は使わず自社生産にこだわり、独自性を保っています。
その他
10年前の情報ではパーカー、ウォーターマン、クロス、ファーバーカステルなどはペン先を自社生産でした。
現在では生産性を向上させるため、自社生産は一部モデルに限定し、多くのモデルはOEM供給を受けているようです。
上記以外でも特別生産モデルなどの一部モデルのペン先は自社生産しているけれど、OEMと併用しているというメーカーはたくさんあるようです。
まとめ
万年筆を製造しているメーカー、ブランドはたくさんありますが、ペン先を自社で生産しているメーカーは
日本国内では
- パイロット
- セーラー万年筆
- プラチナ万年筆
海外では
- モンブラン
- ペリカン
- ラミー
- アウロラ
- ビスコンティ
- デルタ
- コンウェイ・スチュワート
の10社です。
ただし、上記10社の中で一部モデルのペン先に関してはOEM供給を受けている(かもしれない)という情報もありました。
また明らかにはされていませんが、日本の3大メーカーはOEM提供メーカーでもあるようです。
その他のメーカーに関しては、自社でも一部ペン先を生産しているが、OEMと併用しているメーカーが多数を占めているということです。
最後に
今回はペン先を自社生産しているブランドについて紹介しました。
数多の筆記具メーカーでもペン先を全て自社生産しているメーカーってこんなに少ないんですね。
ちょっとびっくりしますよね。
【後編】では万年筆業界を支えてくれているペン先のOEM提供メーカーについて紹介したいと思います。
最後まで読んでくれてありがとうございました。





































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